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東映さんを舐めていたッ! 仮面ライダー50周年記念発表

本当に、本当に申し訳ありませんでした……!



思わず、謝罪からの導入をやってしまわずにはいられない。

何の話ってそりゃあ貴方、
「仮面ライダー50周年記念発表」の豪華さですよ!

「風都探偵がアニメ化」

「白石和彌監督による仮面ライダーBLACKのリブート」

「庵野秀明監督、脚本によるシン・仮面ライダー」


現行シリーズ作品にその劇場版、各媒体でのスピンオフやVシネマといった平時の営みだけでライダーは火車だと、そう侮っていた裏側で、粛々と、細心に、念入りに、肝煎りに、このようなキラーコンテンツが練り上げられていた(しかも三作品も!)とは、一体誰が想像できたであろうか……


仮面ライダーシリーズは作品のリリース期間や出来上がった映像のバリューから、
「安く、早く制作されているコンテンツ」との認識下にある。
元より、等身大特撮は巨大特撮に比べ制作費用も期間も格段に安上がりなアドバンテージを見込める形態であり、偉大な新機軸である変身ポーズ確立との合わせ技で、初代『仮面ライダー』は『帰ってきたウルトラマン』のライバル番組として猛威を振るった。出自からして仮面ライダーは安くて早い番組なのだ。

現行TVシリーズのライダーは、それでいい。

あくまで玩具販促番組である身の丈は甘受しているし、アクションや特殊効果を日曜の朝から毎週楽しめる実写ドラマとしてはむしろ上出来である。規制や予算の枷をはめられた中で面白い事を為そうとする、現場の熱量・工夫・技巧が結実した映像面や物語面でのブレイクスルーもしばし発生し、その都度心震わせ、惜しみ無く拍手を送った。


問題は記念映画のような、現行シリーズの埒外で展開され、リッチさを希求される作品であっても「安い」「早い」の域を出ない事である。


一例を挙げよう。仮面ライダー45周年を大々的に掲げ、初代仮面ライダー・本郷猛こと藤岡弘、氏を主役として招いたアニバーサリー企画の『仮面ライダー1号』ですら、藤岡さんの「2、3年くらい掛けてじっくり企画を練りたいねえ、ハッハッハッ」との提案(ハッハッハッと笑ったかどうかまでは分からないが、弘、なのでたぶん笑うだろう)がスタッフの説得により慌てて取り下げられ、東映の「安い」「早い」主義を象徴する集合映画群・通称「春映画」の枠組に収まってしまった。
「安い」「早い」と来たら当然次は「美味い」、即ちクオリティの高低が問われる。が、これら三要素はもどかしくもトリレンマを形成する為「安い」「早い」を突き詰めている以上「美味い」も円満達成とはいかないのが現実なのだ。
結果、本郷猛のしたたるような"熱さ"は堪能できるものの、どうにも歪で珍妙な映画が誕生することになる。最も『1号』の様子のおかしさは本郷猛のパーソナルを完全に藤岡弘さんが塗りつぶしてしまっている点に帰依するので、企画が練られていたら練られていただけ、更におかしな映画が爆誕していたような気はしなくもないが……

長年ライダーと付き合っていればこのような経験が折り重なっていき、「○○周年記念!!!」と高らかに謳われても「この制作体制と供給スタイルなんだから、大体これくらいが出てくれば上出来」と、諦念じみた水準を自然に獲得してしまう。『仮面ライダーアマゾンズ』『平成ジェネレーション』シリーズ、『劇場版仮面ライダージオウOverQuartzer』のような快作がいくぶん硬直を解きほぐしてはくれるものの、安く早くを実現するいつもの製作陣がカッ飛ばすホームランの範疇であり(三つ目に至ってはガラパゴス化の象徴みたいな映画である。大好きだが)、コンテンツの天井を否応なしに意識させられてしまい、倦んでいく。

そこに来て、この50周年である。

仮面ライダーがここまで長期的スパンで企画を練り上げ、後日談コミカライズのアニメ化という新境地に乗り出し、現在邦画界トップクラスの監督を二人も招致せしめ、かつそれらを水面下で同時進行させていたなんて。
拙速を尊ぶはずの東映が巧遅を採った。これは長年平成ライダーを観てきた身には脳天から杭が突き抜けるほどの衝撃である。東映さんの記念企画なんて穿った目で見るくらいが丁度いいとの、斜に構えた姿勢はピシャリと正され、仮面ライダー生誕50周年に賭ける本気が、肌が粟立つまでに伝わってきたからこその、冒頭の「本当に申し訳ありませんでした」なのだ。ライダー変える気骨あるならまず東映自身が変わったのだ……!


ライダーの製作側とファンの関係を揶揄し「突然優しくしてくれるDV彼氏」なんて言う人がいるが、いくらなんでも失礼である。せめて「太い客に飴と鞭を使い分けるホスト」くらいにしといて欲しい。


以下、企画の所感など。

風都探偵

円谷さんの『電光超人グリッドマン』を下地にした『SSSS.GRIDMAN』のヒットで特撮アニメの地平が大きく拓かれ、ゲームソフト『KAMEN RIDER memory of heroez』にて、仮面ライダーWのキャラクターに声優によるキャスティングが充てられたのも兆しとなり、「そろそろアニメ化来るんじゃ???」などとまことしやかに囁かれていましたが、来ましたねー。
原作となる『仮面ライダーW』は平成仮面ライダーシリーズの11作目。
陽性・明快な作風に舵を切り出した「第2期」と呼称される作品群の嚆矢であり、探偵コンセプトの徹底した追求、一元的な強さの度合いだけでは勝負が計れない「能力バトル」色の濃い戦闘描写、ヒーローが戦う舞台である街の可視化といった独自要素に、キャラクターの魅力やエピソードのウェルメイドさを高水準で湛え、同じく1期一発目の『クウガ』と並ぶメルクマールとなっているのも納得の大傑作。数々のVシネマや映画客演を経て漫画媒体での後日談も今なお連載中、ここに来てアニメ化と人気の根強さが伺えます。

「伺えます」とやや他人事じみた表記をしてしまったが、『W』ってリアルタイム放送時には実はあんまり刺さらなくて……(確かに面白かったけど、夢中になったのは翌年の『オーズ』だった)、放送時以来に全話観返し「めっちゃ面白いじゃんこのライダー!!!!!!!!」と認識を改め、慌てて超全集やムック本を買い集めてたのがつい一昨年なんですよ。なのでWファン暦浅めの自分ごときが「昔から根強い!大人気!」って言うのもなあ……って、なんか遠慮しちゃうんですよね、誰にともなく。
『風都探偵』はアニメが全くの初見になると思いますので(漫画を普段読まないもので)、物語への純粋な期待は勿論のこと、キャスティングなども今から気になる所。私的にはゲーム『KAMEN RIDER memory of heroez』準拠の声優さんに、メモリの音声+ナレーションは勿論『W』で印象深かった立木文彦さん、そして桐山くんや菅田くんを初めとした元番組のキャストがチラっとカメオ出演でモブキャラの声を当ててたりすると美味しいかな~程度に予想したりなんかしたり。

仮面ライダーBLACK SUN

こちらも驚きました。
『仮面ライダーBLACK』といえば昭和62年に放送された、昭和から通算して8作目となるTVシリーズの仮面ライダー。主人公・南光太郎の若々しくも哀しみを湛えたヒーロー性、スーツアクター岡元次郎さん入魂の風切るように鋭敏なブラックの殺陣、醜悪酸鼻なるゴルゴム怪人の造形美、親友にして宿敵のシャドームーン……と様々な構成要素が現在も高評価されている傑作です。
翌年の「RX」でも同じ主人公が続投する偉業を成し遂げており、また、前後に長いTVシリーズ空白期間が存在する事情から「仮面ライダー代表」としてゲームや漫画に引っ張り出されていた期間も長いおかげで該当世代の認知度は高く「ライダーといえばBLACK」な人も多いほど。かくいう私も幼少期にBLACKが直撃した世代なので、剣聖ビルゲニアの白塗りが怖くてギャイギャイ泣いたり、クジラ怪人を始末しにきたトゲウオ怪人が許せない気持ちを作文にしたためたり、仮面ライダーBLACKガムに付いていた転写シールをそこらじゅうに貼ったり、BLACKの光線銃のおもちゃを買って貰えて喜んだ思い出があります。仮面ライダーBLACKは銃なんか全く使わないのに、何がそんなに嬉しかったんだろうかガキの頃の自分……

そんな名作・BLACKのリブート企画なたけで驚嘆モノですが、何より仰天したのは監督に現邦画界でもトップクラスの気鋭・白石和彌監督を招致するその采配。白石監督といえば、老人の保険金殺人を繰り返す稀代の悪漢"先生"の犯行を克明に描きつつ高齢化社会の闇をあぶりだす『凶悪』や、警察とヤクザの境界を清濁併呑で渡っていくベテラン刑事の背中を、彼とコンビを組む若手の眼差しから見つめた『孤狼の血』などの傑作を輩出している名監督。端的に言ってメチャクチャ面白い映画を撮っている人です。心を抉るように凄烈な悪徳を描きだしてきた白石監督が、仮面ライダーBLACKの世界にどのような血風を巻き起こすのか、監督の一ファンとして『孤狼の血LEVEL2』共々、今から楽しみでなりません。

もうひとつBLACKといえば「その時、不義理な事が起こった」というか、よりにもよってライダー50周年の日に愛が真っ赤に燃える光景を見てしまいましたが、そういったムードも吹き飛ばすくらいにリブートは傑作であって欲しいですね……

シン・仮面ライダー

何といっても今回の爆弾発表ではないでしょうか。

『シン・ゴジラ』そして『シン・ウルトラマン』と来たのだから、「東映もシン・仮面ライダーをやれよ!あっ真さん居たわ……」だの「庵野秀明ファイズ大好きなんだしシン・仮面ライダーファイズ撮らせてあげなよ」だの冗談めかして言われていた所にコレである。東映の手塚社長が「全人類に仮面ライダーを観て頂くための企画」などとと吹聴しだした時は流石にブチ上げ過ぎだろうと冷ややかな眼差しを送ってしまいましたが、ブチ上げるだけのことはある。
つい先日の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』で25年越しにようやくエヴァが完結し、次なるシン・シリーズのブランディング戦略となる『シン・ウルトラマン』が二の矢につがえられたこのタイミングでの発表。「庵野秀明監督が実写作品でメガホンを取られるのは2016年のシン・ゴジラ以来」と強調してあったり(シン・ウルトラマンはあくまでも樋口真嗣監督作品である)、「ヱヴァQの頃から打ち合わせを進めてきた6年越しの企画」と、後乗りでは決してないこともきっちり主張していくのは流石のしたたかさだな~~って、ちょっと苦笑いしちゃいました。6年前といえば『仮面ライダーゴースト』のシン・スペクターや『動物戦隊ジュウオウジャー』のシン・ジニスといった、くだらな目の便乗ネタを指差して笑っていた頃から既に、静かに、人知れず『シン・仮面ライダー』は胎動していた訳なんですね。また東映さんの手のひらの上で踊っちまったぜ……

庵野秀明さんは『新世紀エヴァンゲリオン』での熱狂的リスペクトぷりから断然ウルトラ派の印象が強いですが、仮面ライダーもきっちり愛好されており、東映の白倉伸一郎プロデューサーとは雑誌企画にて熱く対談もしていますし、初代の旧1号編を自身のベストに上げています。平成シリーズでもファイズやカブトがお気に入りのようで「隕石が落ちてきたり人が入れ替わったりする『君の名は』は殆ど仮面ライダーカブトですよ!特撮はアニメの先を常に行くんですね」などという名(妄)言をイベント会場で発せられていました。嘘のようですが真っ青の実話です。
とは云うもののエヴァもシンゴジも所謂「巨大モノ」であったし、平成ガメラ三部作の特撮パートを撮った樋口監督が手掛けるのでなんとなしに当たりはつく『シン・ウルトラマン』に比し、等身大特撮である『シン・仮面ライダー』がどのような映画になるのか未知数の領域はやはり大きく。
従来のゴジラファン層を唸らせたのみならず、ゴジラ映画などひとつも観たことないマスにも波及しスマッシュヒットを飛ばした『シン・ゴジラ』に習うビッグバジェットの映画化企画である事は間違いないものの、「東映さんがライダーにそんな予算を出すのか!?」という負の信頼や(東宝や円谷なら出すのも想像できる)、庵野秀明監督が過去に撮ったもののいまいち悔いが残る出来だった等身大特撮『キューティーハニー』の例などもあり、不安要素も多い。
初代仮面ライダーを怪奇・猟奇・悲哀の角度から照射する作風になるのは監督のフェイバリッド及びイメージイラストからほぼ確定なれども、庵野秀明監督が大好きなスナック菓子をモチーフにしたライダーが複数出てきて、怪人と戦いながら時としてお互いにバトルを繰り広げるような、平成トンチキリスペクト路線にならないとも限らない(ならない)。

主演俳優の選定も気になります。先行する『シン・ゴジラ』が成功したように、そして記者会見で高らかに謳いあげたように「仮面ライダーを観たことない人にも観てもらう」を掲げるからには、集客の見込める相当なメジャー俳優がキャスティングされるのではないでしょうか(逆にライダーや戦隊のOBは内輪感を避ける為にまず無いと踏んでます)。平成ライダーの例に習うなら二枚目若手俳優がチョイスされる所ですが、シンゴジラの長谷川博己さんやシンウルトラマンの斉藤工さんを見るに、本郷猛の年齢設定を高めに置きつつ、容貌の渋みや芝居の円熟を取っていく方針もありそう。

また庵野秀明さんといえば昨日放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』にて、NHKのスタッフを「この男に安易に手を出すべきではなかった」と心胆から畏怖せしめたエキセントリックかつ奇矯な方でもあり、『シン・ゴジラ』の時に庵野さんと東宝スタッフの間を取り持ってくれた、盟友の樋口さんは今回居なさそうだけど大丈夫なの!?などと余計な心配もしてしまいますが、『仮面ライダー鎧武』に携わった、同じく外部クリエイターの虚淵玄さん曰く「東映プロデューサーの揉め事やトラブルに対する折衝能力はちょっと凄い。大変ありがたかった」との事なので、その敏腕が存分に振るわれるのでしょう。『鎧武』の時みたいに、違う方法論を持った外部クリエイターと東映との邂逅が生む、美味しい楽屋裏話の取れ高にも期待したい所。

50周年のその先へ

いや~しかし、この50周年三企画について憶測を飛び交わせているだけでも、大衆居酒屋にあるおかわり自由の生キャベツみたく無限に楽しめてしまいますね。これからも新情報の公開があるたびに界隈が湧きそうですし、白倉Pの弁である「コロナの影響で製作が遅れ、2022年、2023年と随分公開が先になってしまいましたが、逆に言えば50周年の盛り上がりが今年で終わらないということです」にも一理ある。相変わらずマイクパフォーマンスが上手いなこのおっさん……

これら三作品はそのものの出来も勿論楽しみながら、『風都探偵』が仮面ライダーアニメ展開の嚆矢となって、漫画版クウガもアニメ化したり、初のアニメオリジナル仮面ライダーが誕生するかもしれないし、『BLACK SUN』『シン・仮面ライダー』こそが、東映が度々挑むも思うような成果を出せなかった"大人向けライダー"の地平を切り開く乾坤の一擲になるかもしれない……と、気が早くも"その先"を大いに夢見させてくれるものでもありました。豪華絢爛な50周年企画すら助走として、仮面ライダーシリーズが更なる勇躍を遂げてくれる事を、一ファンとして心から願っています。



そして最後にもう一度、本当に、本当に舐めてて申し訳ありませんでした。