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俺達が 最強の 力手に入れたとして 『仮面ライダー鎧武』感想

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www.kamen-rider-official.com


東映特撮youtube配信の『仮面ライダー鎧武』が先日、最終回を迎えました。

いや~この仮面ライダー、たまらなく面白かった、今観ても。


『鎧武』は特に熱をあげて視聴していた仮面ライダーのひとつ。
センセーショナルな外部スタッフの起用と魅力的な俳優陣によって、先の読めない緊迫感溢れるストーリーが紡がれた1年間。非常に楽しい楽しい1年間であったのです。
が、それ故に、想い出が美しいだけに「あの時代に観たからこそ面白かっただけで、機を外すとそんなに面白くないんじゃないか……?」との疑念が湧き、観返すのを無意識的に避けていました。楽しかった記憶は、楽しかったまま留めておきたい。
孔子は言った。「想い出はいつも綺麗だ。然れど、それだけではお腹が空くの」と。同感。此度の配信はいいタイミングだし、そろそろ観てもいいんじゃないか。鎧武を。何より放送から7年の月日が記憶を着実に薄れさせており、このまま鎧武を語る際、曖昧なイメージトークしか出来なくなっていくのも不本意である。

不安は全くの杞憂でした。
理想と現実が火花を散らす合戦場。
残酷な選別を迫る妖樹の森。
『鎧武』はあの頃夢中になった『鎧武』のまま、2021年の今でも、魅力的なヒーロー番組として眼前に広がっていたのです。

 

信じられない第一報


時は2013年。

「フルーツと武者をモチーフとした仮面ライダー達による戦国時代が幕を開ける!脚本を手掛けるのは虚淵玄!」

白日夢みたいな一報である。
過去に戻って触れ回ったら、妄言と鼻で笑われること必至の。

虚淵玄さんといえば深夜アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の大ヒットで当時勢いに乗りまくっていた、PCゲーム畑出身の実力派脚本家。『まどか』は私も大いに楽しみ、手掛けられた作品のひとつ『Fate/Zero』も、毎巻委託開始日には同人ショップへ購入に走り、寝食を忘れ夢中で読み耽っていた。
平成ライダー初期作の頃から「仮面ライダーを物凄くリスペクトしているエロゲーのシナリオライターがいるらしい」と話題に上がっていた程の仮面ライダーファンであり、「吸血殲鬼ヴェドゴニアのサブタイトルが漢字2文字なのはまんまクウガでした」「Fate/Zeroの湾岸倉庫及び未遠川でのバトルは自分なりの龍騎」「まどか☆マギカの杏子は浅倉威みたいにしたかったが可愛くて出来なかった」といった、自作におけるライダーからの影響をたびたび公言していた事も。そんな人がとうとう本家を執筆する、その衝撃たるや!

そして1期平成仮面ライダーの多くに携わってきた本作のプロデューサー・武部直美さんによる「鎧武は平成1期の作風に戻したい」宣言。
当時は『仮面ライダーW』を嚆矢とした、俗に「2期」と呼ばれる作風の安定期。重鬱な展開や、行き違いが引き起こすライダーバトルの刺激で番組を牽引しがちだった「1期」スタイルの見直しが計られ、ヒーロー性を真っ直ぐに押し出す陽の作風へと舵切りが行われた。変身ベルトをコレクション小物で拡張する、かつて『仮面ライダー龍騎』で好評を博したスタイルがスタンダードになったのを受け、玩具ギミックを劇中で積極的に見せていく意識も向上。改革はセールスへと反映され、シリーズの安定感は飛躍的に増してゆく。

が、安定してきたら安定してきたで物足りなくなってくる。
とりわけ私は、13人の仮面ライダーが願いの為にバトルロワイヤルを繰り広げる『龍騎』に心酔して平成仮面ライダーに入門した身。本音としては「ライダー同士は殺し合いでしょ!」の方が馴染む。
そこに決闘を告げる白手袋の如く投げつけられたのが、前述の「鎧武は平成1期の作風に戻したい」宣言なのである。自身も平成ライダーのファンであり、ハードコアな作風で知られる脚本家・虚淵玄を日曜朝8:00に招致しての、野心溢れる1期回帰宣言。
勿論リップサービスも多分に含まれてはいるだろう。長期シリーズにおける作風の変遷は基本、巻き戻す事ができないし、放送規制も厳しくなった。そこまで夢見てはいない。
しかし、熱い。平成1期っ子としては否応なしに心踊る。漠然と倦んでいたライダー中枢も、たまらず興奮物質を全身に伝達し始めた。コレだ!俺が観たいライダーはコレだったのだ……!
案の定、一報の後は荒れた。「ライダーは子供のものなのにエロゲ屋の虚淵を呼ぶなどけしからん」「普段ライダーを見ない奴等が入ってきて騒ぎ散らす」といった風に侃々諤々。
だが平成仮面ライダーは元来、荒れるもの。今や揺るがぬ名作評価を勝ち得ている初期三部作の、『クウガ』も『アギト』も『龍騎』も、放送当時は荒れた(特に龍騎は半端なかった)。それに比べたら平成2期は凪いでるな~と常日頃から思っていたので「オッ早速1期回帰やっとるな!」と、その荒れっぷりすらもまた、懐かしかった。

ここ数年の安定は、登場ライダー数及びライダーバトル抑制の成果ではなかったのか。
登場人物に過酷な試練を与え、正義や義侠心の欺瞞を暴露しながらも真のヒューマニズムに希望を託す、そんなお話を書いてきた虚淵玄さんもポップで奇想天外なフルーツライダーは流石に手に余るのではないか。

不安も多く抱えたまま、ついに放送日は訪れる。


「天を獲る……世界を、己の色に染める。その栄光を君は求めるか?その重荷を君は背負えるか?」
大塚芳忠さんの重厚なナレーション。馬とバイクにそれぞれ騎乗し、怪物の大群を率いてぶつかり合う二人のライダー。(最後には激突する宿命の1号2号じゃん!確かに1期ぽい!)

巨大企業「ユグドラシル」の傘下で栄える計画都市沢芽。(世界樹!果実モチーフをこう膨らませてきたか!)

ダンスチームを結成し縄張り争いに明け暮れる若者達が(え????ダンス????何???)

錠前から呼び出した怪物・インベスを戦わせるゲームで勝敗を争う!(ポケモンバトル????ダンスで競うんじゃなくて????)

……ダメかもしれない。


ダメかもしれない『鎧武』

デザイン面での不安はすぐに安心へと転じた。フルーツ+武者をモチーフとした仮面ライダーはスタイリッシュかつギミックも楽しげに仕上がっている。変身ベルト及びアイテムのロックシードを闇ディーラーから若者達が購入し遊んでいる光景も、玩具販促番組として挑発的な面白い試みだ。そんなベルトで自己実現への近道をしてしまったアーマードライダー・鎧武こと主人公の葛葉紘汰はちょっとバカだし危なっかしいが、人の役に立とうと頑張っている明るい青年で、まずまずの好感触。紘汰を慕う頭脳明晰な弟分・呉島光実も、可愛さとしたたかさの二面性や、兄である呉島貴虎との関係がドラマの広がりを予感させる。

されど、ダンスチームがモンスターバトルでランキング争いをしている意味不明な舞台設定が加点要素を帳消しにする。「一体ライダーで何を見せられているのか」と困惑が渦巻き、止まらない。行き場の無い、抑圧された若者のエネルギーが孕む危うさを描きたいのは察せる。にしては公共スペースで許可を得て踊っていて、市民からも歓迎されているし……(当初の予定だったカラーギャング設定が通らず、違和感ある描写にならざるを得なかった事を知るのはまだ先である)。

そして、カタい。主人公が迷子の子供をなだめながら親を探す冒頭は『クウガ』、独特のバトルルールを視聴者に披露していく様は『龍騎』、『555』のスマートブレインを想起させるユグドラシルのCM……と、確かに初期シリーズへのオマージュは散見される。だがそこに、気負い・りきみを過剰に感じてしまい、観ててむず痒くなってしまうのだ。紘汰の自己実現欲求に絡め「変身」のワードに力点を置いた台詞回しも同様に。
また虚淵さんは実写畑の人ではないため、アニメのセル画やゲームの立ち絵で間が保つ台詞と、実写で役者が演じて間が保つ台詞の違いがどうにも掴めておらず、会話がやや冗長なのも気になってしまう。

何より最大の懸念事項こそ、上記の「ヘンさ」「堅さ」が高濃縮され、臨界光すら放っているような2号ライダー・駆紋戒斗。生まれてくる時代を何世紀か間違えてきたような弱肉強食理論をふりかざし、傲岸不遜な物腰で君臨する強豪ダンスチーム・バロンのリーダー。敗退したチームを「弱者はただ滅びゆくのみ……」「失せろ!負け犬!」などと詩情がかった罵倒で追い撃ちする過剰な刺々しさからして、さぞライダーバトルでも強い大物なんだろう。
だがコイツ、バトルでは大して強くないのである!ビッグマウスを叩きながらしょっちゅう転がされては「俺はまだ屈していない……!」と懲りもせずデカイ態度を取る珍妙なキャラクターであり、ますます番組の行方を不安にさせていく。
元傭兵部隊所属で今はパティシエをやっているオネエ口調でコワモテのおっさんという、癖が強い、いや癖しかないライダーも加わり、気がつけば1クールも終盤に差し掛かっていた。

本当に、本当に大丈夫か鎧武!?


しかし年が明け、果実は熟す。
初瀬ちゃんの死新世代ライダーの台頭である。


さようなら初瀬ちゃん

戦極ドライバーが破損し、黒影に変身出来なくなったチーム・レイドワイルドの初瀬が、力への執着と焦りから果実の誘惑に負け、インベスへと変異してしまう第14話。子供の遊びで済まなくなる瞬間が訪れるからこそ、子供の遊びを描いていたのは薄々分かっていたが、憎めないギャグキャラとして人気があった初瀬ちゃんを贄とする人選の妙もあり、痛切に胸の詰まる展開だ。
自我を失い暴れる初瀬は最早討伐されるべき怪人。だが先日まで言葉を交わしていた知人でもある。斬れるのか、そんな初瀬を。紘汰は、斬れるのか。
「人殺しなんか出来る訳ないだろう……」悲泣し、崩れ落ちる鎧武。お人好しで真っ直ぐな紘汰には、怪物とはいえ、さっきまで初瀬だったものを斬れる筈がないのだ。それでいい。斬れようもない。

が、彼はもう斬ってしまっている。

鎧武が1話にて明るくはしゃぎながら斬り捨てたビャッコインベスこそ「親友・裕也の成れの果てではないか?」との疑惑は、放送直後からずっと持ち上がっていた。
その回答が、ユグドラシル本社にて光実が目にした記録映像の形で、初瀬を斬れず慟哭する紘汰と交互に、なんともまあ親切丁寧に映しだされるのだ。「皆さん!人殺しなんか出来る訳ないだろうと叫んでいる主人公は一話でもう殺してるんですよ!楽しそうに!」と。高らかに。白日に晒すように。
「ひ、ひでェーッ!!巴マミを3話で惨殺した虚淵玄がニチアサでやる事だーッ!!」と、展開の過激さにまず目が行く。が、無論それだけではない。
紘汰はまだ、自分の手が血塗られていることを知らない。一方で視聴者と劇中人物の一部、特に紘汰を慕う弟分の光実は知ってしまっている。この情報開示タイミングの差こそが本展開の白眉なのだ。
紘汰と視聴者、同時に裕也殺しの真実を告げても確かに衝撃的だが、その場のみの花火であろう。持続性は乏しい。ところが、紘汰本人だけが知らない状況を先伸ばしすれば「真っ直ぐな理想を掲げて戦う葛葉紘汰」「真実を知らされ心折れる瞬間」まで、関心と緊張を高い値で維持できるのだ。真実を伏せながら紘汰の側にいる光実と視聴者を、共犯関係じみた連帯で結ぶ手際にも舌を巻く。衝撃展開の底を静かに流れる、なんとも堅実な技巧である。

キャラクターの非業の死で獲得した瞬間熱量を逃さず、じんわりと全編を温める巧さ。この初瀬ちゃん死亡回で『鎧武』を観る目が一変し、本腰を入れて視聴するようになった方も多いのではないだろうか。余談だが、平成ライダー史に残る名モブキャラクター「レイドワイルドのデブ」が発掘されたのも確かこの辺りである。


隆盛するゲネシス

そしてもうひとつの大きな転機は、同じく14話が本格登場となる新世代ライダー達

逆光を背負って高台に揃い踏み、紘汰達を睥睨し、怪物化した初瀬を「正義」の名のもとに粛清する四人の新ライダー。目を覆う惨烈な展開ながら、同時に心をがっちり掴まれた。
なにせ、ただでさえ現時点最強、全く攻略の糸口が掴めなかった斬月が「斬月・真」へと更に強化されてしまっただけでなく、「シグルド」「デューク」「マリカ」と同格の新世代ライダーを3人も伴って立ち塞がるのだ。個々のスペックだけではなく、数でも勝り、大企業の組織力まで行使する敵ライダーから紘汰達は追われ、狩り立てられていく。「この先どうなっちゃうの!?」と興味が湧然とし、番組から目が離せない。

そして彼らが使用する新アイテム「創世弓ソニックアロー」がまたシビれる。遠近両対応の弓状武器であり、刀や槍、銃、鎚など多種多様な武器が偏在していた前世代から一変、新世代ライダーは全員が本武器を携行する。身も蓋もない事を言えば「販促の都合」なのだが、システマティックな兵器発展経緯を連想させ、むしろカッコいい。独特の発射音と共に高速飛来する光の矢がまた痛そうで、子供達を抑圧する大人・ユグドラシルの象徴に、新世代ライダーの強さ描写にと一役も二役も買っていた。
鎧武も新形態「ジンバーレモン」へと昇格し、ソニックアローを手にする。主人公まで同じ武器を使う強行気味な販促に、アクションが単調になるのではとの懸念もあったが、斬撃と射撃をタイムラグ無しに応酬し合う殺陣はシャープかつ独自性に富み、17話のvsマリカ21話のvsシグルドといった名勝負を次々と輩出していく。
更に鎧武のソニックアロー使用には「子供が大人達と同じ力を手に入れた」意義も込められ、反撃のカタルシスが何倍にも高まっているのだ。これは熱い。サブライダーの武器玩具としては記録的に売れたのも頷けよう。

大人達と対峙することによって、紘汰や戒斗、光実達の行動指針や信条もよりくっきりと浮かび上がり、躍動しだす。
1クール目でやや固かった長台詞は、キャラクターの思想を雄弁に語る口上として次第に馴染み、没入感を削ぎ気味だったダンスチーム抗争も、明確なエピソード(18話)を以て終了する。以降ダンス要素は平和だった頃の象徴として時折回顧されるに留まるが、こうなると愛着が出てくるので不思議なものだ。
当初の「気合いが空回り気味の微妙なライダー始まっちゃった……」なんて気持ちは霧散し、私はもう夢中になっていた。

「鎧武、めちゃくちゃ面白いじゃん!」



『鎧武』がどのように始まり、どう受け止め、のめりこんでいったか、当時を回顧しながらざっと綴ってみました。
勿論、視聴者の数だけ目線はありますので私の主観でしかありませんが、リアルタイム放送時の手触りが少しでも伝わったら幸いです。

ここからの鎧武は、もう毎話毎話が面白い。
なので1話ずつ見所を語っていきたい……のだがグッと堪え、「鎧武は何が面白かったのか」を自分なりに纏めてみたい。


膨らみ続ける物語

「遊びの時間は終わりだ。そろそろ悪ガキ共には現実と向き合ってもらおう。」
貴虎が言い放つ台詞通り、『鎧武』2クール目は子供vs大人の対立構造が押し出された。子供vs子供だった1クール目に比してライダーバトルは熾烈化し、選択に伴う覚悟や責任を巡って、内面を抉るように深い問い掛けがなされるようになる。「文明を呑み込むヘルヘイムの森に侵食されかかっている地球」「ヘルヘイムに適応する術として開発された戦極ドライバーが行き渡るのは世界総人口の7分の1」「残りの人間は怪物化を防ぐ為始末される」といった情報も開示され、物語のスケールが一気に大きくなる。ついこの前までダンスチームの縄張り争いをやっていたのに、今や全人類60億の生殺与奪権を握る大企業・ユグドラシルが相手だ。

「途方もないネクストステージへの移行」。これこそ鎧武の面白さであろう。
ユグドラシル及び新世代ライダーも、犠牲を強いる人類救済を絶対に許さない葛葉紘汰の逆襲や、森に眠る創世の力・黄金の果実を巡る内紛により足元が揺らぎ、3クール目では瓦解してしまう。子供vs大人の対立構造は人類vsオーバーロードへとギアを上げていく。沢芽市は戒厳令により封鎖され、侵食拡大を恐れた他国が、街ごと吹き飛ばそうと核ミサイルまで撃ってくる黙示録的状況が到来する。
最終局面の4クールでは、ヘルヘイムこそ進化と淘汰を促してきた宇宙意思である真実が明かされ、オーバーロードすらも滅びの運命を辿り、争点は新世界創造にまで及ぶ。多段式ロケットみたいな番組構造だと思っていたら、本当に話が宇宙規模まで行ってしまった……

ニチアサの予算故、文芸に映像が追随しきらなかった惜しさはあるが、それでも首相官邸からの緊急報道や、植物に侵食されきってしまったユグドラシルタワー、波濤のごとく押し寄せる大量のインベスなどを以て、出来うる限りの終末感が演出されていたのは拍手を送りたい(案の定、現場はかなり頭を抱えたオーダーだったとのこと)。私が昔から遊んでいる大好きなRPG『真・女神転生』シリーズを彷彿とさせる展開に、視聴していて大変ブチ上がったものだ。

分かり易さもいい。ユグドラシルやオーバーロードといった鎧武の敵勢力はいずれも、十分な小出し期間を経てから本格台頭する手順を踏むし、台頭後は旧勢力が没落するため、今何と戦っているかが明白で、ごちゃごちゃしない。
ヘルヘイム植物に侵食されきった沢芽市のランドマーク・ユグドラシルタワーが終末感を煽るのは先程上で述べた通りだが、それだけではなく、この画は「ユグドラシルが負け、今はオーバーロードが街の覇権を握っている」栄枯盛衰、諸行無常を一目で伝えてくる。台詞に頼らない、優秀な状況説明でもあるのだ。
すっきりしてて分かり易い。一年間の長いスパンで番組への興味を持続させていく上で、とても大事なことである。


ライダーバトルにおけるパワーバランス

「ライダー戦国時代」を掲げた通り『鎧武』はW~ウィザード間のライダーバトル抑制傾向から一転し、バトルしまくる。それだけに、各ライダー間でのパワーバランス推移にも良く気が配られていた。

番組初期は、唯一のユグドラシル正式変身者である呉島貴虎の「斬月」を明確な頂点としたパワーバランスが敷かれる。
斬月は絶対強者であり、どのライダーも敵わない。
完膚なきまでに叩きのめされた紘汰が心神喪失してしまうエピソードは印象的だ。斬月とは遭遇したら逃げるが吉の原則は徹底され、番組に緊迫感をもたらす。一方、自称強者の戒斗はこの頃よく床をゴロゴロしており、世辞にも強くは見えなかった。
凰蓮の「ブラーボ」も装着者が従軍経験者故に高い戦闘力を誇る。鎧武がスイカアームズでなんとか撃退したものの、他のライダーでは対抗し難い強敵だった。斬月といい「大人は強い」ことが今後の仄めかしとしても機能しているのが、うまい。

そして第2クール、戦極ドライバーによって得られたデータを元に強化発展を遂げた新型ベルト「ゲネシスドライバー」を着用する新世代ライダーの台頭。
彼らが強く思えなければ当面の主題「子供vs大人の対立軸」が薄っぺらく見えてしまう為、紘汰や戒斗が食らいつき、乗り超えていくべき敵として、新世代ライダーの強さは鮮烈に描画されている。
戦極ドライバーでは、ゲネシスドライバーに勝つことはできない。この原則は相当な強度で遵守された。覆すには「多人数で当たる」「ロックビークルやスイカアームズの補助を得る」「戦極ドライバーをパーツで強化する」といった外的要素が必須となる。どこかの赤鬼のようにノリが良いだけでは、戦極はゲネシスに勝てないのだ。物語上では既に底の見えているシグルドが、それでも素のバロンは圧倒できる29話の描写が解りやすい。
例外が呉島貴虎。彼のみ格下の戦極ドライバーで、補助が無くても格上のゲネシスドライバーに勝つ事が特権的に許されており、「この人なら勝つわ……」と思わせる技量の積み重ねが十分だったのもあって、視聴者を大いに湧かせた。さすが呉島主任だ。
新世代ライダーの強さ描写がしっかりなされていたからこそ、負け続きだった戒斗がゲネシスドライバーを入手し、名実共に"強者"として躍り出た瞬間や、遂に貴虎の斬月・真とも互角に渡り合う紘汰のカチドキアームズに、血が湧き肉も踊ったのである。

3クール目以降は対オーバーロードに主軸が移り、鎧武最終形態・極アームズが明確に最強なこともあって、ライダー間のパワーバランス変動は落ち着く。だが、グリドンやブラーボ、ナックルといった、この時点では戦力的にやや厳しいライダー達が街の為に奮戦する姿や、呉島兄弟による斬月vs斬月・真、自分以外のゲネシスドライバーを全て破壊する戦極凌馬の「キルプロセス」は、ドライバーの性能比を彫り深く描いてきた下積み故に映えるのだ。

そして何より『鎧武』が番組を通じて絶えず投げ掛け続ける「力」への問いが心に響くのも、紘汰や戒斗が今手にしている「力」がどれ程のものであるかを、ライダーの強さという尺度で、克明に顕してきたからこそではないだろうか。


流転するキャラクター達

『鎧武』は『カブト』以来実に8年ぶりの大所帯ライダー。かの『龍騎』を数で上回ると書けばその意欲も伝わるだろう。放送開始前最大のセールスポイントであり、同時に不安事項であったものの、『鎧武』は相当に上手く捌いてくれた。バトルだけでなく、人間ドラマも熱かった仮面ライダーだったのだ。
登場人物達が確固たるスタンスを掲げて行動し、交差、衝突を繰り返しながら、ある者は変化を遂げ、ある者は滅んでいく。
無我夢中で駆け抜けた彼らの姿を、メインである葛葉紘汰・駆紋戒斗・呉島光実を中心に振り返ってみたい。

・葛葉紘汰

本作の主人公。
行動力と正義感に溢れた明るい若者。目の前で傷付いている人間を助ける為なら後先考えず行動しがちで、頭が良くないのに葛藤の泥沼へ進んで飛び込んでしまうタイプ。光実が心を波打たせるのもちょっと解る。
自己実現願望と仮面ライダーを「変身」のキーワードで繋ぎ、「力」を振るうことへの覚悟を問い続けた本作の主人公だけあって、紘汰には多くの試練が課せられた。1話ではしゃぎながら斬り捨てた怪人が親友だったのを皮切りに、全人類の7分の6を見殺しにするしかないと迫られ、住んでる街は証拠隠滅に焼くと脅され、貴虎やシドといった大人に現実が見えてないとシバかれ、光実に裏切られ味覚が失われ……と、肉体と精神の両面から打ちのめされる。
だがこの葛葉紘汰という男、貴虎が、シドが、戦極が、光実が、彼を阻もうとした者達の全てが思っていたより遥かに痛みに強く、犠牲を見過ごせず、処世や保身とも無縁だった。突き落とされるシチュエーションを繰り返しながら、その都度立ち上がり、認められていく真っ直ぐさが眩しい。「歴代主役俳優で最も身体能力が高かった」とスーツアクターの高岩さんも太鼓判な、紘汰役・佐野岳さんによる凄絶怒涛の生身アクションも魅力に大きく貢献していた。

そんな紘汰が、振るった力、選んだ道のすべてに腹を括るのが40話『オーバーロードへの目覚め』
幻術によって垣間見る、禁断の果実へ手を伸ばした者の末路。そこでの紘汰は怪物として人間から迫害され、かつて自分が手にかけた親友・裕也の変身する鎧武に狩られる身。そう、1話や14話の正邪反転なる再演である。追いたてられる紘汰に、怪人達が優しくしてくれるのがまた「お前はこっち側なのだ」と畳みかけてきて、容赦がない。
それでも、紘汰は折れなかった。醜い怪物の姿を晒しながら、裕也を、皆を守ると誓った。
黄金の果実を使い自分の為の世界を作ることも出来たのに、そんなものは要らない。と。
例え変わり果てた姿になっても、世界から弾き出されても構わない。死なないで欲しかった奴、生き延びて欲しい奴の為に、俺は俺の為に戦う。俺の望んだ結末の為に……!と。
裕也の幻が、穏やかに微笑む。罪を赦すように。過酷な道行きへの手向けのように。

どこまでも、曲げることなく、信じた道を往く男・葛葉紘汰。その在り方は今や流儀として身に付いており、様になっている。鎧武に変身して部屋でゴロゴロしながら「何すりゃいいんだ、俺……」などとぼやいてた子供はもういないのだ。
最早彼に迷いはない。人の理から外れようとも。最後に立ち塞がるのが、友と呼べる男だったとしても。

黄金の果実を手にするべく、白銀の武者は最後の戦いへと赴く。

・駆紋戒斗

番組初期はハッキリ言って、大言壮語に戦績がちっとも伴わない痛くてヘンな奴だった。「鎧武、面白くなるの???」と疑わしい原因の半分は彼のせいだったと言っても言い過ぎではない。

だがこの男、世界存亡の瀬戸際になると一転して輝きだす。
どう見ても負けていたのに「負けていない!」と言い張る屁理屈が、ユグドラシルやオーバーロードといった巨大な敵相手にも臆することなく発揮される様は、最早屁理屈ではなく"不屈"となり、大変頼もしく感じられるようになってくる。腕っぷしより心の強さに重きを置いているのも、だんだん呑み込めてきた。念願のゲネシスドライバーを入手し、ビッグマウスに実力がようやく追い付いてきた時は、手間がかかる子の独り立ちみたいに嬉しかったな……
戒斗は当初、バトルでも圧倒的に強い男として描かれる筈であった。しかしスポンサーの要望により鎧武へ勝ち星を献上させる為、バロンが代わりに敗北を被る。口はデカいが負けてばかりだったのはその為だ。
もし初期~中期の負け期間が無ければ、ここまで戒斗を見守り、応援し、強くなった事を喜べはしなかっただろう。偽りの強者を戒める斗い。その内に、未だ不甲斐ない自分自身も含まれていたのではないかと考えれば、人間味も増してくる。演じる小林豊さんが戒斗と似ても似つかないふんわりした物腰で人気を博した件といい、想定外の部分が跳ねたキャラだな、と思う。
意外と冷静かつ合理的に物事を捉えており、激情を肯定してくれる度量もある戒斗は、離反した光実に代わり紘汰の良きパートナーを務め、中盤~終盤にかけては名実共に「2号ライダー」をやっていた。
しかし、そんな地位に甘んじていないのが駆紋戒斗。卑劣な戦極凌馬に制裁を加えるべく、ヘルヘイムの果実を自ら口にする一か八かの賭けに勝ち、並外れた精神力で自我を保ったままロード・バロンへと変貌する43話『バロン 究極の変身!』には度肝を抜かれた。2号ライダーの最終形態が怪人。更にバロン(男爵)が、ロード(君主)となってデューク(公爵)に下克上を果たす意趣まで込められた、本作中最も熱いパワーアップイベントではないだろうか。
激昂する戦極を準備運動とばかりに一蹴したのち、戒斗は世界を自分の手で作り替える野望の成就に乗り出す。
散々地に伏しながら「俺が負けたと思わなければ負けていない……!」と言い続けた男が、遂に、個人でヘルヘイムを克服した。ここまで来たらもう認めるしかない。お前は強い。本物だ。元より平和の中では胸の空白が埋まらず、争いに身を置くことで充足していた男である。やはり戦乱を求める方が、戒斗には相応しい。

黄金の果実を手にするべく、紅蓮の騎士は最後の戦いへと赴く。

 

『鎧武』の最終決戦は、鎧武がバロンを下して決着となる。
2号ライダーを1号ライダーが、友を友が手にかける構図となるが、悲しくはなかった。悲しいが、悲しくはなかったのだ。紘汰も戒斗も、己の理想を最後まで貫き、戦場には男ふたりの「納得」があったのだから。戒斗は「お前は、本当に強い」と紘汰を讃え、滅びていく。1話から示唆されていた決着を、ライバルキャラとしての生を、日和らず全うさせてもらった大往生である。何を悲しむことがあろうか。この爽やかな最終決戦の余韻が「1年間、鎧武を観てきてよかった……」と、万感の想いに浸らせるのだ。

・呉島光実

「悪い子」枠。初期は紘汰のことを紘汰さん紘汰さん慕ってくる、年下の可愛い系男子なのだが、やがて「貴方は病原菌を撒き散らしているんですよ!」などと罵倒と共に蹴りを放ってくるまでに変貌する。変貌しすぎである。
呉島の家では兄から抑圧され、学校でも成績に追い立てられる窮屈な毎日の中、チーム鎧武で紘汰や舞と一緒にいる時だけは活き活きと振る舞えた光実。居場所を守りたい一心で戦いに身を投じた筈が、複数陣営を行き来するが故の情報量と持ち前の頭の回転を活かし、卑劣な策謀を巡らせるようになっていく。
兄・貴虎をその手に掛け、オーバーロードと組んで選民思想に傾倒しだし、紘汰に一度はとどめを刺すなど、強烈にヘイトを買うタイプのキャラクターではある。
だが、劇中で湊耀子にも指摘された通り「地頭は良いがカリスマのあるタイプではない」光実は、自然と人を惹き付ける紘汰や戒斗、貴虎と違い、居場所を手に入れるのに相当苦労したであろう事は容易に想像できる。やっと得た居場所を手離したくなくて、手離したくなくて、強く握りしめ過ぎて壊してしまう。そんな光実が、憎めなかった。
むしろ「賢く立ち回ることに拘泥し、正義や倫理観を失っていく悪堕ちキャラ」としてのスリリングな描写、二面性のある難しい役をメインキャスト中最年少の高杉真宙くんが達者に演じ切ったことによる芝居の見応え、込められた反面教師的メッセージの完成度なども加わって、呉島光実は『鎧武』でも大好きなキャラクターだった。龍玄のデザインも気に入ってたので、中盤以降ほぼ斬月・真に乗り換えるのは残念だったかな。

光実の再生を以て『鎧武』は物語の幕を閉じる
平和の訪れた沢芽市だが、戦極ドライバーはあと1つしか残っていない。その隙を付き復讐にやってくるコウガネ。せめてもの贖罪を込めて迎え撃つ光実だが、再起を賭けた奮闘は、皮肉にも自分が過去行ってきたような絡め手で潰されてしまう。もう、変わろうとしても、やり直そうとしても遅いのか。
深い絶望に包まれた時、遠い星から紘汰が駆けつけてくれる奇跡が起きる。光実に前衛を譲ってのダブル変身、駆けだす二人と同時に流れ出す主題歌『JUST LIVE MORE』、ノールックで隣の龍玄に大橙丸を投げ渡す鎧武……
最終回を観るたびここで感極まり、涙腺が決壊してしまう。光実の罪を、酌量の余地あるものと捉えるかどうかは人によって分かれるだろう。が、人は何度だってやり直せる。変われる。そのメッセージに、弱い。弱いのだ、私は。
『鎧武』は全46話か、それとも全47話になるかが決まらず、土壇場で47話となった経緯がある。この47話がなければ、「変身」の主題をビシッと締めた印象が、今程『鎧武』には無かっただろう。つくづく、この47話があって良かった。それ程に会心の最終回であった。

・その他のライダー達

呉島貴虎。この人は本当にずっと強かった。演じる久保田悠来さんも朝から大人の色気がムンムン。その強さ故に、人類救済に伴う罪業を背負い込み、その強さ故に、戦極や光実の気持ちを理解できず、その強さ故に、紘汰と手を取り合えば物語がイージーモードへ突入してしまうので海に落とされた、苦労続きの人でもあり……最終回後は弟と共に、沢芽を守る本物のヒーローになっていくのが感慨深い。変身だよ、貴虎。
戦極凌馬。自分のせいで世界がメチャクチャになっても全く悪びれない無責任で自己中心派な生き様はいっそ潔く、青木玄徳さんの怪演もあり、次は何をやらかしてくれるのか楽しみだったものだ。紘汰に吐露する「人の絆が大切になる生き方もあれば、何の役にも立たない生き方もある。私は後者を選んだ、という訳だ」の言葉や、貴虎への拗らせきった思慕も、垣間見える本音として、キャラクターに独自の奥行きを持たせていた。
シド。世界一のチンピラ役俳優・波岡一喜さんが演じる時点で推しです。大人を振りかざし弱者を虐げたいだけの粗暴なクズではあったが、帽子に強い愛着を持っていたり、「今は擦れていても、正義を志していた頃があったのでは?」とも思わせるそぶりが絶妙な、愛すべきクズ。貴虎を皮肉りながらも内心認めていたフシがあり、この二人による丁々発止なやり取りが私は大好きだ。貴シドは正義。
湊燿子。佃井皆美さんは可愛いし、躍動感に溢れたアクションをするし、毎シーンではないもののマリカの中身もこなしててスゴい。キャラとしては戒斗に付いていくことにしてから俄然可愛げが出てきて(だめんず体質とも言われて)、死に際の戒斗とのやりとりに胸が詰まる。覇者に近しい男を乗り継いできた彼女ながら、戒斗を終のパートナーと定めてたんじゃないかな。
ザック。お前急にいい奴になったな!?戒斗の子分Aからまさかのヒーロー化は確かに唐突だったが、その爽やかな熱血漢ぷりや、尊敬する戒斗とも全力でぶつかる覚悟、最終回の光実を気遣う姿などで好感度は高く、魅力を最大限に引き出してもらったキャラ。
初瀬ちゃんは鎧武を引き締めた立役者であるし、城之内は男を見せ手に職もつけたし、凰蓮ピエールアルフォンゾはどんどん母性を発揮し、まさかの皆の保護者的役割に収まった。

ライダー達は、本当に色々あった。そう、この「色々あった」が鎧武は心地よい。当初の立ち位置から大きく流転しながらも、生き残った者達が"辿り着いた"と呼べる結末に至る最終回は、ようやく長い旅を終えたような到達感をもたらす。街に閉じ込められる話なのに。

皆、いい奴等だったな。

 

まだまだ終わらない『鎧武』

鎧武、語ってきました。記事を書きながら「あれ?ここどうだったかな?」と該当話を確認しに行くとつい夢中で観てしまうことが一度や二度ではなく、平成ライダー1期のリスペクトや懐古に留まらない、はみ出すような独自のエネルギー迸る快作だったなあ……と改めて実感。

始めこそ「脚本・虚淵玄」のセンセーショナル登用が目を惹く本作でしたが、歴代随一の個性的な俳優陣によるキャラクターとの化学反応や、サブ脚本家の毛利さん鋼屋さん手掛ける理解度高いエピソード、戒斗の変更点など、最終的には虚淵さん以外の部分も大きく跳ねたライダーだったと思います。勿論、氏が提示された物語の全体像および結末が優れており、「変身」や「力」「責任」といったテーマ及び、子供に伝えたいメッセージに大変誠実に取り組んでいらっしゃったからこそなのは言うまでもありません。
また虚淵さん自身が「エーッ!平成仮面ライダーってこんな風に作ってたの!?」と仰天したり、「苦情の類が驚く程届かなかった。東映の人が守ってくれてたと思うと安心できた」と感謝したりといった裏話の類がやたらと面白く、紛れもない『鎧武』のエンターテイメント性の一部になっており、楽しかったです。また登板して欲しいですね。ライダーに。

本記事では触れませんが、鎧武は歴代でもかなり多くのアフターが作られたライダーであり、テレビ最終回後もまだまだ楽しめます。とりわけ『仮面ライダー鎧武ファイナルステージ』『MOVIE大戦フルスロットル』『斬月/バロン』『デューク/ナックル』を経て読む『小説仮面ライダー鎧武』は、鎧武の全てを総括してやるぞと、圧倒するような気迫が筆致から立ちこめる完結作なので、今回の配信で初めて観たよーという方や、TV版以降はタッチしていない方も是非見届けて下さい。アレやソレまで登場し、もう凄い事になってますので……
数々の客演作品に、2019年には舞台『仮面ライダー斬月』が、そして2020年『グリドンvsブラーボ』と、近年に至るまで途切れず新展開のあった『鎧武』。コロナ禍でのキャスト陣による応援メッセージにも熱くさせられました。いずれまた彼らのステージが観られるその日を心待ちにしつつ、筆を置きたいと思います。


長くなりましたが、読んで下さってありがとうございました。