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ゴジラ-1.0の裏で平成VSシリーズを擦り続けたマクドナルド


 
 
『ゴジラ-1.0』の公開から、おおよそ3ヶ月近くが経過。
 
国内では興行収入50億を突破し、北米においても、興収5000万ドルを超える大ヒット。
むしろ日本より海外で絶賛されているフシがあり、遂には1月23日を以て、アカデミー賞視覚効果部門へのノミネートに至るまでとなった。
 
俺は、俺は生きてるんですかね……???
国産の新作ゴジラがこんなにも世界で評価されているなんて……本当の俺は、もうあの島で死んでいて、アカデミー賞視覚効果部門へのノミネートも、朽ち果てた死体が見ている夢なんじゃないですかね……??
 
 
ゴジラの快進撃にあやかるなら今だ!とばかり、映画公開後、各社・各団体がこぞって『ゴジラ-1.0』と自社商品とのコラボレーションを打ち出し始めた。
ゴジラにゴルフクラブを持たせ、眼鏡を踏ませ、銭湯へ行かせ、学舎を襲わせ……ピザーラが「うちの社名の由来はゴジラなんですよ〜」とカムアウトしだした時は「いくらなんでも調子良すぎるだろ」と呆れたが、嘘偽りなく、ピザーラの由来はゴジラでした。疑ってすいませんでした。
natalie.mu
 
 
そのような潮流の中、一社、たった一社だけ、現在大ヒット中の『ゴジラ-1.0』には目もくれず、何故か今頃、かつて隆盛を誇った『平成VSシリーズ』とのコラボレーションを大々的に打ち出す、様子のおかしい会社があった。
 
 
マクドナルドである。

今更平成VSシリーズ

 
1984年版『ゴジラ』をタイムラインの起点とした、

『ゴジラvsビオランテ』
『ゴジラvsキングギドラ』
『ゴジラvsモスラ』
『ゴジラvsメカゴジラ』
『ゴジラvsスペースゴジラ』
『ゴジラvsデストロイア』

の6作。以上を俗に「平成VSシリーズ」と呼ぶ。
 
作風をざっくり言えば、ド派手。山盛り。大スケール。バラエティ過多。引き算??何それ??
 
錚々たる顔ぶれの大怪獣たちが、日本各地のランドマークにて対峙し、ドラゴンボールばりに光線をドカドカ撃ち合う、まさしく"Versus"なシリーズ。
TVヒーロー番組とは桁違いにゴージャスな特撮パートや、超能力、UFO、恐竜といった当時のブームを盛り込んだ物語展開で、多くの90年代キッズ達を夢中にした。キッズの一部は夢中になり過ぎて、特撮を卒業できなくなった。
故・生頼範義氏の手による重厚な怪獣アートに、「世紀末覇王誕生!だれもがこの戦いを待っていた」「破壊神降臨」とアゲアゲな惹句の躍るポスターがまた絶品で、コレに熱くならなかった小学生男子などいない!!!!と断言してもいい。
まさに、国産怪獣映画が年末年始エンターテインメントの目玉であった頃の、古き良き時代を象徴するゴジラシリーズだと言えよう。
 

 
 
そのような、20年以上も昔のシリーズを、最新作『-1.0』に目もくれず推しまくっているマクドナルド。
「ビオランテを倒したあと宇宙へ登っていく沢口靖子の顔」「高性能アンドロイド・M11のスィーッとした走り」「Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero-type」等で未だにキャッキャキャッキャしている、元90年代キッズのアラフォー特撮おじさん達と大差ないマインドだ。
 
 

気合入りまくりのCM動画

 
このコラボ、初報で発表されたのは限定ベアブリックのみだったため、第一印象はがっかり気味だった。
私も「二大別に嬉しくないコラボ、ベアブリックとパンソンワークス」などとツイートしていた(ベアブリックとパンソンワークスが好きな人、すいません)。
 
当初の冷え冷えムードを払拭したのは、公式がほどなくして投下した、このCM動画。
youtu.be

 
「平成VSシリーズといえばコレでしょ!」な名物ファクターを巧妙にフィーチャリングした、企画担当者の「本気」が伺える宣伝動画。
元90年代キッズのゴジラおじさん達は、ベアブリック時の塩対応から一気に手のひらを返し、感激し、「世間は-1.0全盛なのに頭おかしい……」と畏怖した。
 
折角なので、どこがどう「ぽい」のか検証してみよう。
二枚のうち、上の画像がゴジラVSマクドナルドのCM映像。下の画像が平成VSシリーズの映像、つまり元ネタである。
 

ゴジラの気配を予知する、なにやらワケアリの女の子。
言わずもがな、平成VSシリーズ全作に登場する超能力少女・三枝未希のパロディ。
 
 

モスラの巫女的存在である小美人。
しっかり「コスモス」と読ませるあたりに、平成VSシリーズへの熱いトリビュートが伺える。
 
 

フォントのL字配置。
 
 

ゴジラをモニターする作戦室。平成VSシリーズでは国連軍やGフォースといった組織がゴジラを監視しているので、頻繁に出てくる構図。
 
 

マクドナルドロボ(マクドナルドロボって何?)は勿論、『vsメカゴジラ』や『vsスペースゴジラ』的な格納庫カットで。
近年のウルトラマンにおいても頻出する構図なため、若い人にも馴染みがあるかと。
 
 

マクドナルドロボのパイロット。メカゴジラよりもMOGERA側に寄せたであろう、若干ダサめのメットが味わい深い。
 
 


 
突如現れたマクドナルドロボのデザインを手掛けたのは、なんと西川伸司先生。本家じゃん!!!!!!
 
上記に加え、タイトルコール及びナレーションも明らかに故・小林清志さんに寄せ、平成VSシリーズっぽさの底上げを計っている。
どう見てもやり過ぎである。
 
 

どこにも無い-1.0要素

 
マックは2022年5月にも『帰ってきたウルトラマン』とコラボレーションしている。
この時も、ベムスターやツインテールではなくゴーストロンを宣材にチョイスする通ぷりが話題になっていたが、コラボメニューの片方を、当時公開中の『シン・ウルトラマン』に割り当てるだけの理性はあった。
 
だが、今回のコラボに『ゴジラ-1.0』の影はどこにもない。
前項の通り、PVは全編、平成VSシリーズ臭でムンムンな要素だけで構成されている。
3つの限定メニューはどれも『ゴジラ-1.0』の名を冠していない。
敷島がバネ仕掛けで布団から飛び起きたり、震電がコロ走行でゴジラへ特攻するような、ハッピーセットのおもちゃなどもない。
 
twitterでは連日、「興収50億を突破!」「海外の評価サイトでも高得点!」「アカデミー賞視覚効果部門にノミネート!」とマイゴジ関連のニュースが飛び交っているが、マクドナルドのアカウントは一貫して平成VSシリーズのコラージュ画像を貼り続け、メカゴジラの支援戦闘機・ガルーダと掛けた「デリバリーもアルーダ」なるダジャレを飛ばしている。
いくらゴジラ-1.0の話題を振ろうが、ガンギマった目で平成VSシリーズの話をし続ける友達みたいで、ちょっと怖い。

 

実際に食べてみた

 

 
旨辛肉厚ビーフ&ザク切りポテト

肉厚ビーフとハッシュドポテト。
動物性と植物性の二大具材がバンズ上にて対峙する光景は、さながら、G細胞により誕生した植物怪獣がゴジラを襲う平成VSシリーズ1作目『ゴジラvsビオランテ』といったところ。
双方の具材がうまさ、量ともに高いレベルで拮抗しており、思わず黒木特佐のように「勝ったほうが我々の敵になる……!」と口走らずにはいられない。
辛口ソースの味わいや、パティとポテトの堆積による重層的な食感も小気味よく、具材やソースが溢れて食べにくいといった事も無いため、限定バーガー三種の中で最も完成度の高い仕上がりなのも、平成VS最高傑作と目される『ゴジラvsビオランテ』らしい。
ハッシュドポテト絡みの限定メニューがたびたびマクドナルドに登場するように、ビオランテもいつか、最新ゴジラ映画に再登場してくれ……
 
スモーキーペッパーチキン

ビーフと並ぶ昔ながらの定番具材であるチキンが、スモーキーな燻製香に包みこまれることで、新たな美味しさへと生まれ変わる。国会議事堂に張られた繭から、美しく羽化するモスラのように。
添えられたベーコンとの相性も抜群。みなとみらいでゴジラを追い込む、モスラとバトラばりのベストコンビネーションだ。
スライスオニオンも添えられているものの、オニオンがガツンと来るバーガーキングのワッパーに比べると、やはり物足りなさは否めない……!この、やる奴らなんだが、やや非力さを感じさせる面もあるのが、とても『ゴジラvsモスラ』っぽいメニューだと思う。
 
チーズダブルてりやき

二段重ねへとボリュームアップしたポークパティに甘辛和風ソースがよく絡み合っており、美味しいには違いないのだが、ウリである筈のチーズが甘辛ソースの濃さに埋没気味で、割と只のてりやきバーガーになってしまっている……

しかし、その「只のてりやきバーガー」ぷりが、マクドナルドへあまり行かなくなり、もう10年以上はてりやきを食べていない私の脳領域から、てりやきバーガーの思い出を強く呼び覚ます。
 
まだメニューもオプションも少なかった90年代、マクドナルドはてりやき一強な風潮が、私の周囲で渦巻いていた。
友達とマックに行き、チキンタツタでも頼もうものなら「てりやき以外を頼むやつダッサww」とネタにされるので、無難にてりやきを頼んでおく。小学生特有のカスみたいな同調圧力だったが、てりやきバーガーが本当に美味かったため、おのずと、マックに来たらてりやきばかりを食べるようになっていった。
成長し、大学受験期へ突入してからも、通学時間や塾の合間を縫ってマックへ通い、友人達とゲームやガンダムやマジック・ザ・ギャザリングの話をしながら食べるてりやきバーガーは、いつだって美味しく、勉強づくめで折れそうな心を、力強く支えてくれた。
 
チーズダブルてりやきを食べていると、てりやきバーガーとの思い出が、ありありと蘇ってくる……
これは『ゴジラvsキングギドラ』で、迫りくるゴジラを前に、ゴジラザウルスとの思い出を反芻している、新堂会長と全く同じだ。
太平洋戦争中のラゴス島で、米軍の攻撃から救ってくれた友との再会に心震え、ゴジラに貰った命をゴジラに還すかの如く、熱線で焼かれていった新堂会長。その澄み渡った境地の断片を、今回、私も味わうことができた。
『ゴジラvsキングギドラ』劇中、最もエモーショナルな名場面の追体験をさせてくれる、平成VSシリーズコラボレーションメニュー、それが、チーズダブルてりやきの真価だったのである。
 
 

おわりに

 
『平成特撮世代 新時代のゴジラ、ガメラ、ウルトラマンと仮面ライダー』にて、著者の中沢健さんが、「20代の頃に特撮好きの集まりに行っても、昭和特撮が好きな年上ばかりで、平成VSシリーズは軽く見られていた」と綴られていた。
この方とほぼ同世代の私も、同じ経験を大学時代に幾度もしており、つい、深く頷いてしまったものだ。
 
なので、恐らく平成VS世代であろう企画者の手による、イカれた愛に満ち溢れたコラボレーションが出てくる時代の到来には、元90年代キッズのひとりとして、感慨に胸を震わせずにはいられない。お礼を言いたい。ありがとう。企画した人、異動させられたりしていないか心配です。
 
『ゴジラ⧿1.0』のアカデミー視覚効果賞ノミネートに大きく湧いた、2024年初頭のゴジラ界隈。
その裏で平成VSシリーズを擦り続け、別の角度からゴジラを盛り上げていたマクドナルドを、私はこの先も、決して忘れないだろう。
 
 
(当時のCMやコラボネタが経年で風化しちゃうの、ウルトラマンや仮面ライダーでも身につまされたから、記録しておかないと……)