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ウルトラマンブレーザー 第6話『侵略のオーロラ』 感想


 
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6月某日。
 
ウルトラシリーズ最新作『ウルトラマンブレーザー』のプレミア発表会をyoutubeで観ていた私は、蕨野友也さんのどっしり構えた男前ぷりよりも、ややはにかみながら見どころをアピールする気鋭の若手特撮監督・田口清隆監督よりも、並み居る新怪獣達に混ざってひっそりとステージに登壇してきた、ある宇宙人のことで頭がいっぱいになっていた。
 

 
!!!
 
 

 
カナン星人だと……!?
 

 
 

極光の宇宙人

  
他の昭和ウルトラシリーズとは一線を画す、シックでアダルティ、サスペンスフルな空気感を持ち味とし、緻密なメカニック描写や、問題提起意識の高いエピソード群によって今尚絶大な人気を誇る、日本特撮の金字塔的作品『ウルトラセブン』
うっかり目の前で「ウルトラセブンなんて昔の特撮、観たことないよ〜」などと溢されると「観てください。セブンは絶対に全話観ておいて下さい。」と語気強めに視聴を迫ってしまう程の、傑作も傑作、大傑作。そんなセブンの第24話『北へ還れ!』に登場するのが、この度ブレーザーへの出演が決まり、にわかに注目度上昇中のオーロラ宇宙人・カナン星人だ。
 
「へえ〜ウルトラセブンの宇宙人なんだ〜。再登場枠に選ばれるくらいだし、メトロン星人やペガッサ星人、ガッツ星なんかと並ぶメジャー宇宙人なんだろうな〜」と、セブンにあまり詳しくない人はぼんやり思っているだろう。なので、まずはカナン星人のショボさを解説していく。

ガッカリその1  戦わない

 
悪辣な陰謀が失敗に終わるや、巨大化して暴力による破壊工作に走り、ウルトラマンとプロレスを繰り広げたのち倒される。
これがウルトラシリーズにおける宇宙人の黄金パターンであり、視聴者が最も観たいやつなのだが、カナン星人は巨大化出来ない。したがって、自身の登場エピソード『北へ還れ!』のクライマックスで、カナン星人とセブンによる大迫力のプロレスが繰り広げられることも、全く無い。
元々『ウルトラセブン』という番組は、シリアスなSFドラマを描きたいがあまり、セブンと敵とのバトルが淡白になりがちな傾向がある。それでもクール星人やチブル星人、ペガッサ星人のような、等身大で申し訳程度にセブンと戦ってみせた奴が大多数なのだが、カナン星人にはそれすら無い。
ウルトラマンと直接戦闘しなかった宇宙人は視聴者の印象に残りづらく、一気にマイナー落ちする。セブン木っ端宇宙人の話題で「宇宙帝王wwww」「円盤のフタの方が強い」などと頻繁に挙げられるバド星人だが、巨大化してセブンと戦っている時点で、実はかなりの上澄みなのである。
 

ガッカリその2 怪獣を持っていない

 
ウルトラマンと戦えない、戦わない宇宙人でも、存在感を獲得する手段はある。怪獣だ。怪獣を連れてくるのだ。
使役する怪獣が派手に暴れてくれれば、主人である宇宙人も視聴者からの覚えがグッと良くなる。エレキングを育てたピット星人、キングジョーを呼ぶペダン星人、パンドンを円盤から放つゴース星人などは、怪獣が有名なことで宇宙人も印象深くなっているヤツらだ。
なるほど完璧な作戦である。 不可能な点に目をつぶれば……
そう、カナン星人は怪獣を持っていない。本人に戦闘力が無い上、怪獣も持っていないのだ。モロボシダンがたまたま、たまたま、カプセル怪獣の中からロボット怪獣ウインダムを繰り出してきたところに、電子機器狂わせビームを当てることでようやく巨大戦力が調達できる、哀しいまでの零細宇宙人ぷり……ダンがもし、ミクラスかアギラを選んでたらそのまま潰されてましたよね?????いやほんとに、何の勝算があって地球に来たんだよコイツ!!
しかも『メビウス』や『Z』と違い『セブン』でのウインダムは、かろうじて円盤が落とせる程度の雑魚なので、敵に回ろうが全く怖くない。案の定、暴れるウインダムがだだっ子のようにあしらわれるバトルには緊張感がまるでなく、この脅威レベルの低さがまた、カナン星人のショボさを加速させていく。
まあ、機械を洗脳できる能力は、ロボット怪獣が中核戦力のペダン星やサロメ星に攻め込むなら大いに強力ではあるし、何よりこの能力のおかげで『ウルトラマンブレーザー』への再出演にお声が掛かったのだが……
 

ガッカリその3 ドラマが無い

 
本人が戦わない。怪獣も持ってきていない。
ナイナイ尽くしのカナン星人だが、まだ手はある。ここから人気宇宙人になる道は、まだ残されている。バトルでは冴えない貧弱な宇宙人でも、ドラマで輝けばいい。
最たる例がマゼラン星人マヤ。彼女は戦わないし、怪獣も持っていないし、変身態すらない。だが、マヤこそウルトラセブンの裏ヒロインとも称される程のドラマチックなエピソードを、第37話『盗まれたウルトラ・アイ』にて繰り広げたため、セブン屈指の印象深い宇宙人となった(この回は本当に素晴らしいので、ツブイマ等で観てみて下さい)。逃亡犯としての凶行が、ドラマパートで常にスポットされるキュラソ星人もこのタイプ。メトロン星人、ペガッサ星人、ペロリンガ星人なども、ドラマで大きく点を稼いで人気になった。

では、カナン星人は、俺達のカナン星人はどうなのか。

登場回の24話『北へ還れ!』は、セブンファンなら誰もが挙げる傑作回……という程でもないが、田舎の母親をテーマとした、人情味溢れるエピソードを高く評価する人は、結構いる。ウルトラ警備隊なんか辞めて家業を継げ!と説得しにきたフルハシ隊員の母ちゃんが、誇りを胸に地球防衛の任務へ従事する息子を目の当たりにし、考えを改めていく様は、子供のころに観たときは正直退屈だったが、大人になってから観ると心にじわっと染み込んでくる、いい話だ。
だが、このいい話に、肝心のカナン星人が絡めていない……!殉職を覚悟したフルハシ隊員が、最後に母ちゃんと無線でやりとりする名場面をお膳立てする為だけに、ウルトラホークと旅客機を衝突するよう仕向ける舞台装置。それがカナン星人なのだ。
大体、カナン星人自体が画面に映らなさ過ぎる。『英雄の条件』という映画に「1968年、ベトナムで戦った少尉の平均生存期間を知っているか?」「20日間?」「たったの16分間だ」というやりとりがあったが、カナン星人の出番は26秒だった。 
 
 
 
 
おわかりいただけただろうか。
カナン星人の選抜が、いかに、いかにマニアックであるかが。

 
私自身、特にカナン星人が好きな訳ではない。
むしろ、限られたおこづかいから必死でレンタルビデオ代を捻出していた小学生時代に、戦いもしないし怪獣も出さないコイツの回に当たり「ハズレじゃん……」と肩を落とした、苦いファースト・コンタクトをずっと根に持っている。
だが、そのショボさ、苦さで、却って忘れられず、心の片隅に残り続けていたカナン星人が、55年ぷりの再登場を果たし、今や最新ウルトラマンの敵キャラとして大注目を浴びているのだから、何か、数奇なめぐりあいを感じずにはいられない。昨日まで選ばれなかった彼らを迎えに希望の船がやってきた、今最もハイブリッドレインボウな宇宙人・カナン星人の事をこんなにも考えた1週間なんて、人生で初めてだし、恐らく最後だろう。
マイナー宇宙人に巡ってきた、一世一代の晴れ舞台。これが応援せずにいられるかッ……!!頑張れよカナン星人、明日のエースは間違いなく君だ……!!
 

真夏の極光

 
それでは本編の話を。
 
湾岸でデートしていたカップルの車が異常をきたし、暴走を初める。空にはいまにも墜落しそうな飛行機に、一面を覆う、都内で観測されるはずの無いオーロラ。
カナン星人の特徴が手際よく濃縮された数分のタイトルアバンに、否が応でも期待は高まる。辻本貴則監督の過去怪獣づかいは『ウルトラマンZ』のペギラ回や『ウルトラマントリガー』のザラガス回、バニラ&アボラス回でも高水準だった。今回も信用してます!!
 
本日の主役はヤスノブ隊員。エミ隊員やアンリ隊員、ゲント隊長からの頼まれ事をついつい引き受けてしまい、オーバーワーク気味なご様子。
い、居るよね〜〜、大学とか職場にも、こういう、なまじコミュ力が高い上に機械にも強いから、色んな雑用が回ってきてしまう人。上司の評価も高く、モテたりもするんだけども、だんだん心身に負荷が掛かっていって、ある日急に来なくなるみたいな……セブンのカナン星人回が『北へ還れ!』なら、ブレーザーのカナン星人回は『有給を取れ!』といったあたりでしょうか。
行きつけのコインランドリーにある洗濯機を「クルルちゃん」と命名し、赤ちゃん言葉で話しかけるマニアックな趣味も明らかに。いやさ、家の洗濯機でやるならまだしも、コインランドリーのに名前を付けるのはだいぶヘンな趣味だぜヤスノブ隊員!!!出くわしちゃった隊長もドン引き。
 

8分30秒あたりでカナン星人登場。
おお、本当にカナン星人が令和最新のウルトラマンに出ている……夢じゃねえよな……!
ニュージェネレーションシリーズの宇宙人らしく、今回のカナン星人にはハービーという個体名がついており、しかもボクっ娘であざとい!!!優秀なメカニックであるヤスノブ隊員を賞賛し、あくまで友好的な物腰を崩さず、味方に引き込もうとしてくる。
宇宙人という異物が日常風景へぬるりと入りこみ、甘言で人を誑かす。セブン宇宙人の再登場回だけあって、しっかり『ウルトラセブン』の様式を踏襲した筋書きになってる!!これにはセブンファンの私もニッコリ。尚、ハービーがヤスノブの身元を言い当てるシーンで、既に『セブン』におけるカナン星人の総登場時間である26秒を超えております。
 

!?
光線を浴びたからって脱がないだろ普通!!!!!!この脱がせたかったから脱がせた感、坂本浩一監督じゃねえんだから!!!
しかし凄まじくマッシヴですね、ヤスノブ隊員役の梶原颯さん……その後にひょっこりカメオ出演した田口監督の、上半身裸のヤスノブにどん引きして去っていく芝居がうまくて笑う。
 

カナン星人の潜伏先は湾岸の風車だった。55年前にカナン星人がアジトとしていた北極の灯台を彷彿とさせる、粋なチョイス。内部にはなにやら機械をいじっている、二人のカナン星人。そうそう、カナン星人といえばコレ!!な画で、『北へ還れ!』オマージュ度が高い。セブンの方はあと一人カナン星人がいたり、機械もゴチャっとしてましたが。
特筆すべきは戦争で滅んだ母星の末路を語るハービー。モニターに映るカナン星では、猛吹雪が吹き荒れている。つまり、セブンのカナン星人が何故か北極を占拠してイキっていたのは、母星に近い環境をキープしたかったからか!!!まさか、まさか55年ぶりにカナン星人の設定補完があるなんて……。これだから再登場怪獣は面白い。
 

オーロラ光線に誑かされ、ゲント隊長を襲うアースガロン。ここもさりげなく、ウインダムがモロボシダンを踏み潰そうと迫る『北へ還れ!』の特撮場面が意識されている。そしてブレーザー対アースガロンのバトルへ。
『北へ還れ!』のセブンvsウインダムがつまらないのって、ウインダム自体がこの回でようやく2度目の登場なため、あのウインダムが敵に!?なんてやられても、こちらは何の思い入れも持ってないからなんですよね。その点アースガロンはSKaRDの最大戦力として、思い入れの持てる描かれ方を3話から続けてきたし、バトルでも目をぐるぐるさせながらブレーザーと一緒に頑張ってきたから、あんないい子が敵になっちゃうなんて!?と、気を揉まされるつくりにちゃんとなってる。カナン星人が登場する元エピソードの、印象的な場面はリスペクトしつつ、良くなかった部分はしっかり改善されている……凄くない???
 

ヤスノブ隊員の呼び掛けでアースガロンが正気に戻ったため、風車に偽装していたロケットで逃走を図るカナン星人。灯台ごと飛行していたオリジナルに対し、分離して竹とんぼ状のロケットが出現するギミックに。
 


スパイラルバレードでロケット爆散!55年前もワイドショットで念入りに殺されてたのを思い出す、景気のいいオーバーキル。
投擲の際、タメを作るブレーザーさんの腰が、ギュルルルルルッとありえないねじれ方してませんでした????「宇宙人だなあ……」と思わずにはいられない、若干キモめの挙動が意図的に組み込まれてますよね、今回のウルトラマン。
 
これにて一件落着。
人と人との関係がそうであるように、人と機械の間にだって、単なる使い使われの関係だけじゃなく、恩、義、情といった暖かみが介在しているんじゃないだろうか。してたらいいよね。という願望に応えるかのような、クルルちゃんの「ガコン!」が素敵な余韻を残すエピローグ。

総評

 
はい。という訳でウルトラマンブレーザー6話『侵略のオーロラ』の感想を綴ってきました。
 
さて、放送前から随分気を揉んだ、カナン星人の扱いですが……
 
 
メチャクチャ良かったですね。
 
 
機械操作、オーロラ、複数で行動する女性宇宙人、潜伏先が塔、円盤で逃げる所を爆殺……と、カナン星人を出すならやって欲しい事リストが全部キレイに埋まった上、あのボーダー模様の服で笑いを取ってきたり、侵略理由の補完までなされる、非常に行き届いたフューチャリングぷり。カナン星人の名が聖書に由来していることに掛け、「福音」のワードが次回予告に用いられていた時からオッと思わされたが、本編も期待通り、いや期待以上のカナン星人づかいでした。ブレーザーのいちエピソードとしても、ファンタジックで、人情味があり、ちょっとヘンな、印象に残り易い話だったので、「ああ!ヤスノブが脱いだ回のアイツ!」ってな具合に、カナン星人も多くの人に覚えてもらえ、脱マイナー宇宙人を果たせたのではないだろうか。辻本監督、やっぱりいい仕事するぜ……
 
 
最後に、『ウルトラマンブレーザー』という番組の所感を少し。
特撮番組のマーチャンダイズ上、年々Too muchになっていかざるを得ないヒーローのタイプ数やアイテム数を抑え、新規怪獣や防衛隊、単発エピソードの面白さといった、ウルトラマンが持つ本質の部分で勝負するブレーザー。放送開始から1か月以上経ちましたが、めちゃくちゃいい番組です。毎週本当に楽しみ。こういったある種、古参オタクの願望的路線に「やってみようか」と許可が降りる今のウルトラマン、本当にいい流れが来てるなあと。 
勿論、先輩ウルトラマンのパワーをお借りしたり、ジャグラーや伏井出先生のようなレギュラー悪役が出る、ニュージェネレーションシリーズが築いてきた楽しさも、否定されるべきものではない。なので、ブレーザーがヒットしたのを契機に、以降のウルトラマンはバラエティ豊かなのとシンプルなのが交互に来るみたいな、シリーズへ幅をもたらすマイルストーンになってくれると嬉しいですね。
 
それでは。
 
 
 
 
(それにしてもヤスノブ隊員、ムッキムキだったな……)
 
 

関連商品

 

カナン星人の!!!!!ウルトラセブンマニア向けじゃない商品が!!!令和に出るなんて!!!!!これ本当にエライことですよ。
 

買って遊んでますが、今年はアーツいらないんじゃないかって位に素晴らしい玩具。この可動に音声ギミック付きで、今の時代に5000円しないのはスゴイことですよ。
 

次週出るやつ。一体どのような攻撃でブレーザーを苦しめるのか。


クルルちゃん……